移住者メッセージ

ねぶたの造形美に魅了されて30年。憧れの師匠のそばでねぶたを研究

   

2025年4月 2日:更新

プロフィール

   

 鶴宮一輝(つるみや かずき)さん/東京都出身の1994年生まれ。東京都に2年ほど住んだあと、親の転勤により青森市に引っ越しすることに。幼稚園卒業までの3年ほどを青森市で過ごす。その後、宮城県や神奈川県など各地を転々とするも、幼い頃から好きだったねぶたに惹かれ、2021年に青森市への移住を決意。会社員をしながら「竹浪比呂央ねぶた研究所」に所属し、ねぶたの造形や文化について学んでいる。

ねぶたに魅了されて約30年

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 両親にねぶた祭に連れて行ってもらったことがきっかけで、ねぶたが好きになったという鶴宮さん。0歳の頃から31歳になる現在まで、毎年ねぶた祭には欠かさず足を運んでいるといいます。


 「親が転勤族で各地を転々としていたのですが、それでもねぶた祭が大好きだったので、親におねだりして毎年連れてきてもらっていました。幼い頃から、紙とペンさえあればねぶたを描いていましたし、宿題が終わった後のご褒美もねぶたのDVD。大学でもねぶたをテーマにした卒業論文を提出しました。住む場所や環境が変わっても、ねぶただけはずっと好きなままでした。」

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 幼い頃はあまりの迫力に圧倒され、モチーフの鬼を見て大泣きしたこともあったそうですが、それでも力強い墨の線や鮮やかな色合いなど、怖さや迫力をつくる一つ一つの造形に徐々に惹かれていったのだといいます。


 「一番好きなねぶたはありますか?」と鶴宮さんに尋ねてみると、「いっぱいありすぎて一つに絞るのは難しい」とのこと。

 続けて、「でも、特に尊敬しているねぶた師は竹浪比呂央さんです。竹浪さんの作品は、コンセプトから色彩感覚、墨の線引きまで、どれをとっても隅々まで感性が研ぎ澄まされていて、毎度新作が発表されるたびに圧倒されます。」と教えてくれました。

憧れの師匠のそばで

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【ワ・ラッセに展示されている竹浪比呂央さんが制作したねぶた「足柄の公時頼光に随う(2024年)」】


 そんな鶴宮さんが青森に移住したのは、2021年のこと。ねぶた祭の開催地である青森市に拠点を置きながら、本格的にねぶたを学びたいと思い、移住して早々に憧れの竹浪さんへ連絡をしたのだそう。


 「お会いしたのは2021年11月14日16時半。今でも時間まではっきり覚えているくらい、本当に緊張しました。竹浪さんとは、大学時代の卒業論文をきっかけに一度お会いしてお話したことがあるのですが、当時のことを覚えていてくれたのか、『やりたいのであればぜひどうぞ』と快く受け入れてくださりました。」

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<提供:竹浪比呂央ねぶた研究所>


 鶴宮さんが敬愛するねぶた師の竹浪さんは最優秀制作者賞を8度も受賞しており、後進の育成にも力を入れている、いわばねぶた界のレジェンド的な存在です。高い技術を持ちながらねぶたの振興に貢献してきたことが評価され、2023年には第7代ねぶた名人に認定されました。


 竹浪さんは2010年に「竹浪比呂央ねぶた研究所」を設立。研究所設立の背景には、「ねぶたを『紙と灯りの造形物』と捉え、永続的にねぶたの魅力を知ってもらいたい」という竹浪さんの熱い想いがありました。竹浪さんの研究所には、県内外問わずねぶたの文化や造形に魅了された熱い想いを持った人が訪ねてくるそうです。鶴宮さんもその仲間たちと共に、竹浪さんの近くでねぶたを研究しながら日々高め合っています。

方言や四季のメリハリも青森の良さ

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 2021年に研究所を訪れた鶴宮さんは、まずは制作の見学をさせてもらうことに。最初は竹浪さんの制作の様子を遠くからうかがっていましたが、ゴミ拾いをしたり、道具を渡す手伝いをするうちに、徐々に作業を任せてもらえるようになり、2023年に正式に研究生となりました。


 はじめは方言の壁に悩んだという鶴宮さん。「師匠や先輩方からせっかく指示をいただいたのに、『ねっぱれ』と言われて『どういう意味だろう?』と。帰宅して妻に聞いたら『それは"くっつけろ"という意味だよ』と教えてくれました。妻は石巻出身。石巻にも青森と共通した方言があるようなので、本当に助かりました(笑)」と当時を振り返り笑います。


 青森は東北の中でも、特に方言やイントネーションに特徴のある地域。青森での暮らしを通して気づくさまざまな文化の特色が、鶴宮さんにとっては非常に新鮮であり、面白い点なのだそう。奥さんや研究所の仲間たちとの会話のきっかけにもなっているようです。

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 鶴宮さんは、「四季がはっきりしている点も青森の良さだ」と話します。


 「厳しい冬を経てこそ、夏に向けて気持ちが高まっていくように思います。そういった四季の流れを肌で感じながら夏の祭りを迎えることができるのは、この地に住んでこそ。ねぶた祭をより心から楽しむことができるようになった気がします。」


 春は桜が町を彩り、夏は祭りで熱狂し、秋は紅葉で趣を感じ、雪深い冬を迎える。そういった四季のメリハリを感じる点は、この地ならではの良さといえるのかもしれません。

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