春 義彦さん/ 出身地:神奈川県、移住地:五戸町、職業:農業 春 文子さん/ 出身地:青森県弘前市、移住地:五戸町、職業:農業 |
春義彦さん
神奈川県出身。1982年生まれ。東京農業大学卒業後、有機栽培や無添加食品の宅配会社に勤務。栃木県での農業研修を経て、2011年に移住し、夫婦で春農園を営む。
春文子さん
青森県出身。1971年生まれ。小学生まで弘前市で暮らし、その後神奈川県へ転居。農業でふるさと青森の力になりたいとの思いから移住。
春義彦さん
小さい頃から親の影響で無農薬野菜を摂るのが普通だったことや、兄が環境保護の仕事を一生懸命やっていて、自分も環境保護とか自然とかに興味をもつようになりました。大学で農業に関する机上の勉強をしてきましたが、今振り返ると、実際に農業の道に進んだことに繋がっていたのかなと思います。
卒業後は、有機野菜・無添加食品などの宅配サービス会社で3年間営業をやりました。妻とは同じ会社で知り合い、仕事もやり甲斐がありました。ただ、自分で野菜を作ったことがなかったので有機野菜や無添加食品に対する知識が浅く、逆にお客様の方が深い知識を持ってて勉強になることが多かったので、自分が知らないものを人に薦めていくことに段々苦痛を覚えるようになりました。
それで、自分で農業を実際に経験して生の声で届けられたらいいなと思い、脱サラして栃木県の「帰農志塾」という農業研修ができるところに行きました。
五戸町に来たきっかけ
春義彦さん
私の父も母も祖父母も、その前まで遡っても東京都とか神奈川県です。ただ、やはり自分の中では、神奈川県で農業をしていくつもりは全く無く、農業をするなら何かしら繋がりがあるところが良いと思い、妻の出身地である青森県にしたのです。
春文子さん
私は弘前市で生まれ、小学校の時に神奈川県に家族で移り住みました。テレビでりんご畑が減っているといった青森のニュースを見たりすると、何とかしたいなという気持ちになりました。
いざ就農するとなると、そこに人生を掛けて、二人の労力を掛けて、無農薬といった農法(自然を守っていく農業)に力を注ぐことになるわけですから、どうせなら自分の故郷に少しでも力になって、青森が元気になってくれたら嬉しいと思いました。
最初は弘前市近辺に土地や家を探しに行ったんですけども、なかなか見つかりませんでした。こういう無農薬とか無化学肥料でやりたいというと、まず拒否されてしまいます。そういうんじゃ(病気や虫が発生するから)畑は貸せませんと。従来どおりの農協の指導どおりにやってくれるなら貸しますという感じで、なかなか好意的な返事はもらえませんでしたが、たまたま五戸町の方で、夫婦で来るなら面倒見るよと仰ってくれるがいらっしゃって、空き家も畑も全部世話をしてくれたのが、竹洞さんという方。全てにおいてお世話になっている恩人ですので、竹洞さんなしには、自分達の春農園はスタートできていません。本当に感謝しています。
生き物を殺さないでふるさとに恩返しがしたい
春義彦さん
栽培面積は1.3ヘクタール、栽培品目は大きく分けると40品目ぐらいです。単に市場だけを考えた農業ではなく、環境や人のことを考えた農業にこだわっています。やはり人間は、自分が口に入れる食べ物、飲み物でできているので、野菜の形とか自分の農業では全く関係がないのです。大抵の人は、野菜を洗っている時、ちょっとでもシンクに落ちたものはすごい丁寧によく洗うんだけど、農薬とかの目に見えていない部分は殆ど気にしていないように思います。それを口に入れるって考えたら、自分達は農薬とか化学肥料を使ったものをお客さんに届けたくない、届けられないので、やっぱりそこは本当にどんなに自分達が辛くても、どんなに虫が湧いても、そこだけはもうぶれないようにしていきたいと思っています。
春文子さん
生き物を殺さない農業をしていくことで、青森の豊かな自然が守られます。川の水も綺麗になり、その綺麗な水が八戸の海とかに行って、そこの漁港も豊かになりますから、ただ大きく立派な野菜が採れればいいということは考えていないです。そうすると、小さい長いもができたりするんですけどね(笑)。
春義彦さん
無農薬野菜がどういうものかを知らなくても、ここの野菜は美味しいというのが、年々広まってきているのを実感していて、それがとても嬉しいです。県でも特別栽培農産物認証などの仕組みで後押ししてくれていますので、そういった仕組みを利用しながら、お客様に少しでも興味を持って食べてもらえるようになってほしいなと思います。
晴耕雨読の充実した日々と人の繋がり
春義彦さん
私は、本当に自分がやりたかったことを仕事にできているので、何かこう「次の休日はいつだ」みたいな感じが全くなく、とても幸せを感じています。農作業が終わった後は、音楽を聴いたり、本を読んだりが結構好きなので、秋の夜長じゃないですけども、日暮が早くなってくると良い時期がきたなという感じです。
青森に来て一番印象に残っているのは、紅葉の時期に十和田湖を通る山越えをして津軽方面に行かなければいけない時があって、未だにあの風景だけは忘れられません。あんな綺麗な紅葉は見たことがないってくらい凄かったです。
春文子さん
神奈川にいた頃は、旅行に行くという感じじゃないと見れないものが、青森ではちょっと出掛ければ八甲田とか奥入瀬とか綺麗な自然がすぐ近くにあるので、それがいいなと思います。
春義彦さん
人の繋がりも増えました。年齢の近い方はまだそんなに多くはいないんですけども、地域の人も受け入れてくださったりして、違う集落にも館鼻の朝市に出していた頃に知り合ったところから農業仲間が増えました。あと、県の若手農業トップランナー塾に入ったことがきっかけで、県内のいろんな農家さんとの繋がりが拡がりました。
春文子さん
農業を通して、私はJAの女性部に誘われて、お祭りや倉石牛祭りがあるとお手伝いに行ったりしてます。また、横浜市出身の奥さんとか、関東出身という方が何組かいて、クリスマスに一緒にご飯を食べたりしています。
最初は有機農業についてなかなか理解してもらえなかったりしましたけど、最近は「できるもんだな」というふうに言葉で仰ってくれる方もいますし、必要な部品を無償で譲ってくれたり、応援してくれる方もいます。このビニールハウスも作ってくれました。もう60歳を過ぎた方が、屋根にスタタタタターって上って。本当に感謝、感謝です。
地方には地方にしかない魅力がある!
春義彦さん
例えば、旅行はまず地方に行くじゃないですか。皆、そこに癒しがあるということを心のどこかで分かっているんです。やっぱり、東京にいることで疲れていたりというのがあるので、地方には地方にしかない魅力って物凄くあると思います。確かに、便利さとか、そういうものは都心に比べれば少ないですが、目に見えない人と人との繋がりだったりとか、そういった部分で心が豊かになれる場所だと思うので、あまり頭で考えて駄目そうだとかっていうよりは、自分の感情に素直に従って動いてみてもいいんじゃないかなというふうに思います。
春文子さん
私は小さい頃の弘前市の記憶しかいないので、青森県ってどこでも雪がたくさん降るものだと思っていました。五戸町に来たら、全く積もらないで、寒さで凍るっていう感じに驚きました。青森っていっても広いので、自分に合った町なり村なりというのがあると思うので、農家民泊みたいに何回か来られて体験してみるというのもお薦めします。
夫婦で力を合わせ「農福連携」を目指す
春義彦さん
将来は、農業と福祉の課題を掛け合わせて解決する「農福連携」にも取り組んで、障害をもった子達と連携して規模を拡大していきたいと思っています。
春文子さん
今、貧困している子ども達がすごく増えています。ここに来ればご飯が食べられるよという場所にしたりとか、そういう支援がしたいです。環境を守る農業から派生して、品質の良いものを作り、安全なものを提供し、しっかり代金をいただいて、そのお金を子ども達の支援に回していく、そんな目標が見えてきました。