移住者メッセージ

祖父の死が転機となりUターン 地域資源を生かして多彩な活動を展開

   

2021年4月26日:更新

移住者メッセージ

プロフィール

   
根市大樹(ねいちひろき)さん/ 1981年、南部町出身・在住。「合同会社南部どき」代表社員。大阪芸術大学文芸学部卒業後、Uターン。デーリー東北新聞社に新聞記者として6年間勤務。退職後、農業を学ぶためオーストラリアやアメリカのワイナリーなどで働く。2011年、シェフである弟と八戸市に地産地消をコンセプトにしたフレンチレストラン「農風キッチン YuI」をオープン。祖父母から受け継いだ畑で農業を営むかたわら、2012年からは「NPO法人青森なんぶの達者村」の立ち上げに関わり、グリーン・ツーリズムの活性化に尽力。2016年「合同会社南部どき」設立。2018年12月、カフェ「南部どき」をオープン。

"北のフルーツ王国"と呼ばれる南部町は、全国でも屈指の果樹生産地域。標高615メートルの名久井岳と馬淵川の恵みにより、サクランボ、アンズ、モモ、ネクタリン、ブドウ、リンゴ、ナシ、イチゴなど一年を通してさまざまな種類の果物が収穫できます。大阪からUターンした根市大樹さんは、祖父母から受け継いだ畑で農業を営むかたわら、南部町の地域資源を生かし、地域に根ざした多彩な活動を展開しています。

_RYS9557.jpg

大阪からUターン。新聞記者として地域を巡る中で農家との出会いが刺激に。

 南部町で生まれた根市大樹さんは、サラリーマンとして働く両親と農業を営む祖父母のもとで育ちました。 「子どもの頃は、農業も田舎も全然好きになれなかった...」と苦笑いする根市さん。「テレビで観る都会はきらきらとまぶしく華やかで、できれば早く青森を出たいと思っていました」。

 もともと、映画や舞台が好きだった根市さんは、大阪芸術大学に進学。東京の会社から内定をもらっており、卒業後は東京で働く予定でした。そんな根市さんに転機が訪れたのは、大学4年の時。

「大好きだった祖父が亡くなったんです。僕はじいちゃん子だったこともあり、畑で一緒に遊んだことを思い出して、ちょっと感傷的になってしまって。あの時の心境を言葉ではうまく説明できないのですが、DNAというか本能というか...『ああ、あの場所に帰りたいな』という思いが湧き起こってきたんです」。 たまたま、祖父が亡くなった当日に、以前、試験を受けていた青森の新聞社から採用通知が届いた偶然もあり、根市さんは東京の内定先を辞退して U ターンしました。

 帰郷後は、地元の新聞社に入社し新聞記者として6年間勤務。農政担当の期間が長く、取材で訪問した農家との交流を通じて、徐々に心境が変化していったと言います。 「十和田のある農家さんと知り合いになったんですが、いつもすごく幸せそうで。田植えや稲刈りになると地域の人みんなで助け合ったり、子どもの運動会に家族そろって出かけたり。暮らしの上に仕事があるっていいなと思い、自分もこんな暮らしがしたいと思うようになりました」。

 2010年1月、根市さんは新聞社を退職。翌月、農業やワインづくりを学ぶためにオーストラリアに渡ります。

弟とフレンチレストランをオープン。若手農家の協力を得て地域の食の魅力を発信。  

「実は、僕には弟と一緒に農家レストランを開きたいという夢があったんです。当時、弟は、北海道の高級リゾートホテルのレストランで料理人として働いていました。北海道の食材に惚れ込んでいて、地元に帰ってくる意思はなかったんですが、地元の農産物を送りつけたり、帰省した時には一緒に農家さんを回ったり、2人で料理しながらこういう食材はこんなふうに使ったら面白いねとか話したり、帰ってきたくなるようなことをたくさん仕掛けました(笑)」。

 根市さんの作戦は見事に成功! 2011年7月、八戸市に地産地消をコンセプトにしたフレンチレストラン「農風キッチン YuI」をオープン。弟がシェフを務め、根市さんはマネージャー業務と、地元で採れた農産物の提供を行っています。(2020年11月に「cuisine francaise Yui」として移転オープン)

レストラン.jpg


「オープンにあたり、南部町の若手農家たちに声をかけたところ、すぐに6軒の農家が農産物を提供してくれることが決まりました。南部町は、県内でも若手農家の意識が高いエリア。親世代が確立した農業から一歩踏み出して、自分たちの農業をやりたい! 新しいものにチャレンジしたいという意欲もあり、県のトップランナー塾で学んでいるメンバーもいます。アツい思いを持った若手農家とのつながりができたことで、地域の食の魅力を発信できるきっかけになりました」。



地域でお金が回っていく仕組みを作り、若い世代が定住できる街にしたい。

 根市さんは、祖父母から引き継いだ畑で父と2人農業を営むかたわら、南部町からのオファーを受け、「NPO法人青森なんぶの達者村」の立ち上げメンバーに加わります。それまで町が行ってきたグリーン・ツーリズム事業を活性化するとともに、教育旅行や海外研修の受入れなどに尽力。活動の土台ができ、徐々に若い世代が加わるようになったことから根市さんは役員を退き、2016年、「合同会社南部どき」を設立しました。南部どきの「どき」は、ワクワクドキドキの「どき」と、さあ、今こそ南部町の「とき」だよ! という思いを込めて名付けました。

_RYS9519.jpg
 

 根市さんが着目したのは、廃棄される果樹の剪定枝を活用した新たなビジネス。高齢化が進むなか、冬の剪定作業や枝集め、廃棄作業は高齢農家にとって大きな負担となっていました。根市さんは、これらの作業を請け負い、引き取った枝でナッツや鮭の燻製を作り販売するという6次産業化に取り組み始めました。 「経済が疲弊すると、街に若い世代がいなくなってしまう。地域のなかで、きちんとお金が回っていく仕組みを作りたかったんです」。

 根市さんたちが燻製作りの工場として使用していたのは、JR青い森鉄道三戸駅前にある古い倉庫。旧・町営市場として使われていた倉庫群のなかにあります。 「地域のなかでみんなが集まって、おしゃべりできる場所がほしい。ここがカフェだったらいいのに...。」 そんな声がたくさん寄せられたことから、根市さんは倉庫をリノベーションし、2018年12月、燻製工場を兼ねたカフェ「南部どき」をオープンしました。

 店内に入ると、お洒落なカウンターやワイン樽を利用したテーブル、ゆったりくつろげるソファがあります。シルバーカーを押しながらやってくるおばあちゃんや、地元の農家、高校生など客層もバラエティー豊か。「一応カフェなので、コーヒーだけは買っていただいていますが、おばあちゃんたちは持ち寄ったお茶菓子を交換しながらおしゃべりに花を咲かせています。一人暮らしのおばあちゃんは、1週間顔を見ないいと心配になるので、ちらっと家に様子を見に行くこともありますよ」。

 カフェの店長を務めるのは奥さんの雪奈さん。「子供が生まれて間もない時期にはお客さんに赤ちゃんをあやしてもらいました。3世代、4世代の笑い声が響く地域の集会所のような空間です。」

_RYS9312.jpg



地域資源が豊富な田舎は、ビジネスチャンスの宝庫!

 起業にあたって、根市さんは公益財団法人21あおもり産業総合支援センターに相談しました。 
「起業後も伴走しながら支援してくれたのでスムーズでした。県もそうですし、地域のサポートも手厚かったです。地方で起業するメリットは、地域資源が多いこと。青森県産の農林水産物は首都圏でもかなり人気なので、まだまだビジネスチャンスがたくさんあると思います。また、地方は小規模で事業を始められるので少ない投資でも可能。お客さんの反応を見ながら、臨機応変にやり方を変えられるのもメリットです」。
 根市さんは、2020年6月から八戸市で、若手経営者らとワインショップの「事業承継」にも取り組んでいます。
「後継者がおらず店をたたまなければなくなったワインショップがあって。そこを私を含め異業種の5者が協力し経営を引き継ぎました。人口減少が進むなか、一人で継ぐよりも何人かがチームを組んで経営する仕組みが作れたら、今後の新しいビジネスモデルとして期待できるのではないかと思っています」。
 ところで、地方に移住する場合、生活の糧をどう稼いでいくのかは誰もが不安に感じるところ。それに対し、根市さんは、"地方だからこその強み"があると語ります。
「我が家は経済的に決して余裕があるわけではありませんが、畑があるので食べ物も作れるし、カフェ、観光などお金が入る経路がいくつかあるので、今のところ2人の子どもたちもちゃんと育てられています。僕らみたいに商売をやっている人たちはサラリーマンのように固定給がないので安定しませんが、パラレルワークというかマルチワークというか、いろいろな収入源を持って暮らせるのは田舎の強みだと思います」。
 

_RYS9473.jpg



"誰とどこで暮らし、どういう風にお金を稼いでいくか"というイメージを明確に

 南部町では、昔から各農家がホームステイを受け入れてきたことから、街の人がみなオープンでフレンドリーだと言います。海外から子どもたちを受け入れたことで交流が生まれ、70代、80代のお母さんたちが飛行機を乗り継いでベトナムまで子どもたちに会いに行くなど、国内外との交流も盛んに行われています。
「南部町の人は外国人にも慣れているので、インドネシア人が来ようがアメリカ人が来ようが中国人が来ようが物怖じしません(笑)。南部町は移住者を受け入れる土壌があると思います。果樹栽培が盛んで、『結』というか地域のなかで助け合う関係性もあるので新規就農者にもおすすめです。我が家は、5歳と3歳の子どもがいるのですが、自然豊かな環境で子育てできるのは何にも代え難い幸せですね。近くの畑で子どもたちが虫を追いかけて走り回っているのを見ると、『ああ、南部町に帰ってきて良かった...』って思います」。

 根市さんは、これから移住を考えている人たちに向けて次のように語ります。
「僕のまわりにいるIターン者は隣近所との関係が良く、地域のイベントにみんなで参加したり、何か困った時に助けてくれる人がいるケースが多いですね。キーになるのはやはり"人"だと思います。移住はエネルギーがいりますが、"誰とどこで暮らしてどういう風にお金を稼いでいくか"というイメージを明確にすることで、きっと自分に合う場所が見つかると思います。それがもし南部町だったら、僕はすごくうれしいですけど(笑)」。

 南部町の魅力を多くの人に伝えるために、根市さんは地域の仲間とともに活動を続けています。

S__46301196.jpg


「南部どき」webサイト https://www.nanbudoki.com/

上部へ