移住者メッセージ

「駒の里・十和田」で馬に乗って牛を追うのが夢! 生き物、人、自然が共存し、命が循環する里山をつくりたい

   

2022年4月 5日:更新

移住者メッセージ

プロフィール

   

佐々木 (ささき はじめ)さん/十和田市生まれ・在住。東京農業大学卒業後、国の農業研修プログラムに参加し、アメリカの農場で1年半、農業や畜産を学ぶ。2017年、帰国し、十和田市にUターン。黒毛和牛の繁殖のほか、短角牛を育てて肉牛として出荷・販売を行う。「あおもりインターナショナルファーマーズブランド推進協議会」会員。

十和田市で9代続く農家の長男として生まれた佐々木基さん。祖父と父は兼業農家で、稲作をしながら黒毛和牛の繁殖を行っていました。地元にいた頃は、「農家の仕事はやりたくない」と、思っていた佐々木さんですが、国内外の農業に幅広くふれたことを機に、食料生産だけにとどまらない農業の役割や価値を再発見。2017年、十和田にUターンし、放牧飼育、自家飼料による牛肉生産・販売を行うとともに、将来は、林畜農連携による新しい里山文化をつくり、人と自然が共存する農業を目指したいと夢を描いています。



里山の暮らしが教えてくれたもの 

 「兼業農家だった祖父と父は、早朝から牛の世話に追われ、仕事から帰宅すると息つく暇もなく農作業。そんな姿を見て育ったので、農家の仕事は絶対にやりたくない!と、思っていました」と、語る佐々木基さん。国立公園で働く環境省のレンジャー(自然保護官)に憧れ、高校卒業後は、東京農業大学短期大学部へ進学。環境保全を専攻し、ランドスケープや都市計画、造園などを学び、その後、東京農業大学に編入して国際農業を学びました。

 大学3年生の時には交換留学でタイへ、その後、研修でブラジルを訪問。国内外の農業にふれるなか、佐々木さんの意識を大きく変えるきっかけになったのはゼミの活動でした。ゼミでは福島県鮫川村に通算20回ほど通いながら、「里山」の暮らしについて学びました。山村では、人が山に入って適度に木を伐ることで森のなかに光が差し込み、新たな命を育んでいました。また、山で刈り取った下草は牛のえさになり、牛の糞尿は堆肥にして田畑にすきこむなど、すべての命が無駄なく循環していました。

「ゼミの先生がおっしゃった『風景を食べる』という言葉にハッとしたんです。ここから生まれる恵みは、この風景のすべてがつながってもたらされたもの。農業の役割は食料生産だけではなく、人や生き物、自然が循環しながら共存するために大きな役割を果たしているのかもしれない」。そう気づかされたと言います。

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アメリカの農場で出会ったカウボーイに憧れて

 大学を卒業した佐々木さんは、農家を目指す若者を対象とした国の農業研修プログラムに参加。畜産コースを選択し、アメリカの農場で1年半、学びました。「ロッキー山脈の麓にある農場では、肉用牛1万頭を放牧し、馬に乗ったカウボーイたちが牛をえさ場へと移動させており、その姿に衝撃を受けました」。農場では人と動物、自然が一体となって共存し、厳しい自然のなかで農業が新たな生態系を生み出していました。その時、佐々木さんの頭に浮かんだのは、馬産地であるふるさと十和田の景色でした。

「この景色を十和田の中山間部に落とし込めないだろうか。今、日本では価値を失って放置された山が課題になっている。南部牛にルーツを持つ短角牛を十和田の山に放牧し、それを馬で追う。『林畜連携』によって、牛や馬、人と自然が共存し、命が循環する里山をつくりたい」。佐々木さんは、大きな夢を胸に帰国し、2017年にUターンしました。

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コロナ禍でも地元の応援に支えられ 

 地元に戻った佐々木さんは、十和田市にある北里大学獣医学部の研究室を訪ねました。2009年に肉用牛で国内初となる有機JAS認証を取得し、輸入穀物、化学肥料に依存しない資源循環型肉牛生産システムを開発したことを知り、興味を持ったと言います。佐々木さんは、そこで紹介された地元の畜産農家のもとで2年間働き、短角牛の繁殖・肥育、牧草販売、同社経営の飲食店を通じて6次産業化など畜産業界について学びました。

 独立した佐々木さんは、牛飼いをしながら精肉店でのアルバイトも経験。「自分で育てた短角牛を骨の髄まで無駄にしたくない。そのために、精肉の知識と技術が必要だ」と、感じたからです。現在は、黒毛和牛の繁殖のほか、短角牛のなかでも子牛を産む役割を終えた経産牛を買い付け、数カ月間育ててから肉牛として出荷しています。短角牛は、夏は共同牧場に放牧し、冬は牛舎で干し草やりんごのしぼりかすなどの飼料を与える「グラスフェッド」で育てています。赤身肉は低脂質・高タンパクなため、近年、国内外の健康意識の高い人たちから注目が集まっています。地元のイベント出店やSNSを通じて販路も広がり、県内外の飲食店や個人向けに牛肉を販売しています。十和田市内の飲食店では、佐々木さんの短角牛を使ったハンバーガーが看板商品になるなど人気を集めています。「コロナ禍で首都圏の売り上げが落ち込んだ時も、地元の飲食店がランチメニューに牛肉を使用してくれるなど、みんなで応援してくれた。地元の皆さんに救われました」。


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「仕事はファーストライフ、暮らしはスローライフ」が実現できる十和田

 2021年、佐々木さんは県内の若手畜産農家6人とともに「あおもりインターナショナルファーマーズブランド推進協議会」を立ち上げ、県産牛肉の販路拡大に取り組んでいます。

「戻ってきてあらためて感じたのは、十和田は飲食系に関してもレベルが高いし、IT関係などさまざまな分野で頑張っている方がたくさんいること。現在、異業種交流で関わっているメンバーからも刺激を受け、次々に人脈が広がっています。十和田はもともと稲生川の開拓から始まった街なので、よそ者に対して受け入れ体制があるし、新しいことを始めやすい場所。移住者にも人気の街です。今は、Wi-Fiさえあればどこでも仕事ができるので、仕事はファーストライフ、暮らしはスローライフで、好きな場所に長期滞在しながら暮らす人も増えてくるのでは? 県外に出た人が、また帰ってきたいって思える街であればいいなと思っています。今はまだ、山で牛を飼うまでには至っていませんが、いつかは、『駒の里・十和田』で馬に乗って牛を追い、新たな里山文化をつくるのが夢。そのために、まずは生産者としての土台をつくっていきたい」。
 十和田の歴史や資源を生かし、オリジナルな発想で取り組む佐々木さんの挑戦は続きます。


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