開湯およそ800年と、津軽地方で最も古い温泉といわれる「大鰐温泉郷」を有する大鰐町。春にツツジで真っ赤に染まる「茶臼山」や、全国レベルの大会も開催される「大鰐温泉スキー場」も有名で、湯治客、スキーヤー、観光客で賑わった時代もあります。しかし近年は、時代の流れで来訪者も変遷し、入り込み客が減少しています。その解決策の一つとして、大鰐温泉もやし増産推進委員会を中心に町と有志が取り組む、駅前の老舗土産店リノベプロジェクトに、関係人口の2人が参加。それぞれの想いや取り組みを伺いました。
川田 瑞樹(かわた みずき)さん/
今回取材した「関係人口」の川田瑞樹さん(写真左)と沓掛麻里子さん
青森を元気にする取り組みをしたい
青森市出身の川田さんは、4年前、県外の大学へ進学。地元と離れた場所で学ぶ中で、地域問題に関心を寄せています。
「大学3年のときに見た消滅可能性都市リストに、青森県の8割の市町村がのっていたことに危機感を持ちました。それから、人口減少に関する本などを読み始めたんです」。
調べる中で、関係人口という考え方を知った川田さん。今回のプロジェクトを見つけると、「青森を元気にする取り組みをしてみたい」と、勉強するつもりで応募したそう。「将来、地域のコミュニティスペースになり得るような場所を自分で作りたいという漠然とした夢があって。そのためにはどうしたらよいのか、町はどのようになっていくべきなのか。自分の視野を広げながら、青森の一つの町のお手伝いもできたら」と考えたそうです。
大鰐駅前の老舗土産店を地域内外の人が集まるコミュニティスペースとして再生するプロジェクトに「関係人口」として参加
町民のホスピタリティに感動
今回のプロジェクトで、約1週間、大鰐町に滞在した川田さん。駅前の老舗土産店を、どのように再生すればより町が活性化するのか。プランを提案するためにさまざまな場所に行き、町の人と関わりました。その中で、町の魅力の一つに、人の良さもあげられると思ったそうです。
「飲食店に行くことが多かったのですが、そこで関わった人たちが、すぐに自分を受け入れてくれたのが印象的でしたね。それから、今回のプロジェクトを率いる「大鰐温泉もやし増産推進委員会」の皆さんのホスピタリティ、もてなす心はとても勉強になりました」。同委員会は、町の活性化のためにさまざまな事業に取り組み、他地域のさまざまな事例も研究しています。「世界一のおもてなしを目指すと。それを聞くだけですごいと思いますし、そういう団体は町の重要な財産だと思います」。
そんな町民たちとの触れ合いは、川田さんにとって貴重な経験になりました。
今回のプロジェクトを率いる「大鰐温泉もやし増産推進委員会」との打ち合わせの様子
今後も関係人口に注目
「対象は一つの町だったとしても、地域内外のさまざまな人間がその町について考えることができるのが、関係人口に関するプロジェクトの良いところ」と、川田さん。地域の人と関係人口が協働することが、より良い成果を生むと実感したそうです。
関係人口とは、観光以上定住未満のような、地域と多様に関わる人々を指した言葉ですが、川田さんは、この定義にとらわれずさまざまな形態があっていいと考えています。「世の中が変わりつつある中、例えばオンラインだけで関わる形もあっていいと思います。このプロジェクトが終わったあとも、もっと町づくりに対して、多様なアクターが関わっていける取り組みをやってみたいですね」。
自身が代表を務める「青森の湯っこ協会」の羽織をまとった沓掛さん(写真左)
沓掛 麻里子(くつかけ まりこ)さん/
板柳町出身。大手旅行会社の添乗員として10年以上の経験があり、全国1,700カ所以上の温泉を訪れている温泉ソムリエ。ここ数年は青森県の温泉のPRに特に力を入れるようになり、「青森の湯っこ協会」を設立。大鰐温泉で何かしたいと思っていたところ、今回のプロジェクトに出会い参加。
住んでなくても、青森に関わりたい
自他ともに認める温泉マニアで、県外に住みながら、出身地・青森県の温泉をPRする活動を展開する沓掛さん。移住イベントで出会った大鰐町の温泉担当職員に、まちなかを案内してもらったことがきっかけで、大鰐町に興味を持つようになりました。
「歴史や見どころを聞きながら歩いたら、すごくおもしろくて」。この町ならではの魅力にどんどん惹かれていったといいます。「もっと人が来てもいいはず。私に何かできないかなと、思うようになりました」。
そんな想いが芽生えたところに、ネットでこのプロジェクトを見つけた沓掛さん。移住せずとも関われるところが、沓掛さんの活動やライフスタイルとぴったり合って、迷わず行動に移しました。
大鰐温泉の伝説に由来する湯魂石薬師堂。足湯も設置され楽しめる。
町民の地元愛に感動
沓掛さんは板柳町に高校卒業まで住んでいましたが、それまであまり温泉に興味がなく、大鰐町に行ったこともありませんでした。ですから、「津軽のちょっと遠い町」「スキー場がある町」という漠然としたイメージしか持っていなかったそうですが、実際に大鰐の町を歩き、興味を持って調べたところ、昔はすごく栄えていたということを知ります。「繁栄していたのは、それなりの要素があるからだと思いました。可能性を秘めた町なのだから、やっぱりもっと人を呼べるはずだと」。
強い想いを胸に、このプロジェクトで町の人と関わった沓掛さん。すると、町民たちが実はすごく地元に対して愛があるということに気がつきます。「最初は人がいなくて寂しいという話から始まっても、必ず最後は大鰐のいいところに話が移っていく。みんなの中に大鰐愛があるんだなと思いました」。
この気づきをもとに、知識や経験も活かしたリノベプランを提案。町が少しでも良くなるようにと願いながら、任務を果たしました。
人との出会いが宝物
「このプロジェクトに参加して一番よかったことは、人との出会いですね」と、沓掛さん。「青森をよくしようと思っている人や、青森で楽しく暮らしている移住者がたくさんいることを知りました。類は友を呼ぶで、そういう人のまわりには、青森好きな人がたくさん集まっています。その人たちとつながることができたので、プロジェクトが終わったあとも、さまざまな展開が期待できそうです」。
というのも、沓掛さんには、今回の縁がきっかけでやりたいことが一つ増えました。それは、大鰐町の伝統行事「丑湯まつり」を、もっと人を呼べるイベントにすることです。「私が代表を務める湯っこ協会と連携して、人手を増やして、いい方向に展開していけたらいいですね」。
関係人口として、外にいるから持てる目線、築けるつながりがあるのでしょう。立場を最大限に活かした活動で、沓掛さんの想いを形にするチャレンジは続きます。