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関係人口レポート

祭りがつないだ絆 今別町は第2のふるさと

   

2021年3月26日:更新

   

 本州の北の果て。津軽半島の先っちょにある、今別町大川平地区。8月ともなるとネブタとともに「荒馬」と「太刀振り」の荒々しい踊りの「荒馬まつり」が開催されています。
 この祭りは田の神に感謝する伝統行事として行われ、約450年近くの歴史があります。男性が馬に扮し、それを先導するのが手綱取りの女性で、太鼓と笛のリズムに男女が息を合わせ、激しく跳ね踊る躍動感あふれる祭りなのです。
 今から20年ほど前、伝統芸能サークルに所属する京都の大学生数名が大川平を訪れ、祭りに参加。住民から踊りや囃子を習い、祭り期間をこの地で過ごすうち、地域の人のあたたかさや土地の魅力に惹かれ、すっかり大川平のとりこになってしまったといいます。以来、サークルの学生たちが毎年通うようになり、今ではOB・OGやその家族も含め、毎年100人前後が荒馬祭りに参加するようになりました。
 さらに昨年から、地域住民を含めOB・OGと学生数名の有志で、「おおかわだい好き大作戦」プロジェクトを開始。これは、奥津軽のふるさと・大川平に"帰る"人達や、大川平の人たち同士がつながる空間づくりに取り組むプロジェクトで、50人ほどで活動しているといいます。中心メンバーのうち6名の方に大川平への想いを聞きました。


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黒坂 周吾(くろさか しゅうご)さん/
東京都出身。京都在住。中学・高校時代に授業の一環で、今別の荒馬を題材にした荒馬踊りに取り組む。立命館大学在学時に和太鼓サークル「和太鼓ドン」を立ち上げ、大川平地区と全国の荒馬好きの繋がりを作った中心的存在となる。卒業後、音楽家として活動しながらも、在学中から今に至るまで、荒馬祭りに関わり続ける。

20年の関係は、大川平の人が素晴らしいからこそ

 大川平と荒馬を愛する私たちの関係について、おもしろいなと思ったことがあります。それは、最初に行き始めた私の年代の人たちと現役学生では年の差が20近くもあるのに、大川平の魅力について、皆が口を揃えて「人のあたたかさ」と言うことです。私が感じているふるさとに帰るような感覚を、今の現役の子たちも感じているということが、奇跡的なことのように思います。

 なんで大川平に行くのかと、何がそんなに魅力なのかということはよく聞かれます。私は本当に大川平が好きなんですけれども、そう聞かれると答えにくいといいますか。例えば、実家になんで帰るのかって聞かれるのと同じで、「ふるさとだからですよ」と。理由なんてない関係性になっちゃったんでしょうね。きっと、大川平に恋してしまったんだと思います。その恋がずっと続いているような感じです。

 そのように大切な場所だから、いつまでも元気な町でいてもらいたい。大川平と自分たちのためにやりたいことはたくさんありますが、自分の立場で何ができるかと考えたときに、普段から音楽活動をしているので、ステージ場で荒馬というものをどんどん外に発信していきたいなと。PR活動も、先頭に立ってやっていければと、いつも思っています。それから、プロジェクトのネットワークを使って、みんなの力を集約して、大川平の地域の営みをどう作っていくかを考えていきたいです。外からとてもおこがましいんですけど、もう20年通っているから許してと(笑)。ネットワークにはとても優秀な人がたくさんいるので、最先端の取り組みにしたいですね。

 ただ、どれだけすごい活動を成し得たとしても、最後に過疎化を鈍化させるのは、大川平に関わった私たちのような人間だと思います。というのも、私や仲間が、引退したら自然と大川平に"帰って"いくんじゃないかなと。町の人口はそのときにどっと増えるかもしれないと、思っているんですよ。


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周布 祐馬(すふ ゆうま)さん(写真右)/
愛知県在住の会社員。立命館大学の卒業生で、和太鼓ドンのOB。大川平には約20年間通っている。

踊りの魅力、地域の魅力にとりつかれて

 大学に入って、ドンに入って、先輩に「青森におもしろいところがあるから行かないか」と誘われて。初めはたいそうな理由はなく、ただそれだけで大川平に行きました。祭りの前に現地入りして、地元の人と一緒に跳ねながら教わって、ということを何度も繰り返していくうちに、踊りの魅力であるとか、地域の魅力っていうものにとりつかれて。それから20年、通っています。

 今回のプロジェクトは、卒業生や現役の大学生を合わせた約50人のメンバーで、2020年の秋頃から活動しています。私たちはこれまで夏の祭りの時期しか大川平に行っていなかったので、この活動によってほかの時期も行きやすくなれば。それから、地元の人同士もつながれるような、何かその場所、時間みたいなものが作れたらいいなと考えています。メンバー間でも考え方がそれぞれですが、共通しているのは、今別をもっと知ってほしい、荒馬をもっと知ってほしいと、そういうところだと思います。

 私は、大川平の空き家を活用して、まずはこれまで荒馬まつりに来たことがある人が、より気軽に"帰れる"ようにしたいと考えています。さらにそれを発展させて、まだ大川平を訪れたことのない人も滞在できる、地域宿泊所にしたいなとか。いろいろと考えていく中で、地元の人たちが「うちの町においでよ」と、自信を持って言えるような町にするお手伝いをすることが、一番だと思っています。

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松浦 玲佳(まつうら れいか)さん/
京都市在住会社員。和太鼓ドンOG。
大学卒業後、仕事の都合で夏の祭りに"帰れ"ない時は春や秋、冬に"帰省"することもしばしば。

親、兄弟のような存在の地元民たちを応援したい

 私はドンのメンバーとして、在学中、また卒業してからも20年近く、大川平に通っています。大川平の魅力は、土地というより人かなと思います。大川平の人との関係性は最初からあったものではなく、時間をかけて育んでいったものですが......。どこかで、何かがハマったのでしょうか。私もいろいろとお話を聞きに行ったり、私自身のことも聞かれるようになったり。青森に血がつながった人がいるわけでもないのに、親のように、兄弟のように私を温かく受け入れてくれる。そういう人たちがいる場所だということが、大川平の何よりも好きなところです。そしてその人たち同士も仲がいいので、その関係に入らせてもらえるところがとても魅力的です。

 今回のプロジェクトでは、私はあまり大きなことは考えていないのですが、今後も私や後輩たちが、地元の人と末長くお付き合いできるような下地づくりはできればいいなと思っています。地元の人の中には、私が大学生の頃に小学生、中学生だった人たちがいるのですが、その人たちは一緒に育ってきた弟、妹のような存在です。彼らが町を盛り上げたいと思っているなら、私はそれを応援したい。自分も行動しますが、応援隊的な存在にもなれたら嬉しく思います。


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西嶋 一泰(にしじま かずひろ)さん(写真中央)/
和太鼓ドンのOB。荒馬をきっかけに祭りの研究に従事。島根県大田市の地域おこし協力隊を経て、一般社団法人しまね協力隊ネットワークを組織し、地域づくりの支援に携わる。現在は、研究者として島根県立大学の教員を務める。

自分の知識や経験を生かして この町に関わっていきたい

 学生の頃の楽しかった思い出が、荒馬まつりのツアーです。行くまでも楽しくて。青春18切符を使って2日かけて行くので、本当に特別なところに行く感覚でした。半島の先っちょなんて、用事でもなければ行くことはないでしょうから。そこの人たちと、こんなに仲良くなれるのだというおもしろさからハマっていったのだと思います。大川平の人たちは本当に楽しい人たちで、人の魅力が先にきてしまいます。

 もちろん荒馬まつりも、いつも楽しく参加させてもらっています。外から来た私たちが、大事なところにものすごく関われるという部分がとても魅力的で。私たちが行かなくなったらこの祭りはなくなってしまうんじゃないかと思うくらい、地元の人たちは胸を開いて迎えてくれます。だから、また行こうと思うんです。これだけ地域、人に関われるところはなかなかないぞと、そういうところも大川平の魅力だと思います。

 私は今、島根県の地域おこし協力隊を経て、地域づくりの活動をしながら、大学で祭りの研究を続けています。この経験や知識を、大川平の役に立てることができれば嬉しいですね。プロジェクトでは、空き家の改修をしながらいろいろなプログラムを走らせていきたいです。それはゲストハウス的な宿泊施設だけでなく、地域のなかの居場所だったり、ほかにも可能性があると思っています。このプロジェクトに参加することで、祭りだけでなく、大川平という地域に、もっと関わっていけたらと思っています。



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岡田 和也(おかだ かずや)さん/
この春に立命館大学を卒業し、今別町の地域おこし協力隊に応募中。和太鼓ドンのOB。

憧れだった遠い場所と、もっと深く関わりたい

 そもそも、遠い場所への憧れのようなものを持っていました。どこか遠い場所に行って、そこで縁を作って帰ってきて、また次の年も行こうというような。ですので、大川平の人たちと祭りを通して関わり、仲良くしていただけることを、とても嬉しく思っています。さらに、地元の人だけでなく、そこに集まってきたほかの地域の人たちと繋がれるところも魅力ですね。私は今千葉にいるのですが、大分の人と青森で出会って、東京で再会するというようなことがあって。そういう、さまざまな出会いの機会もまた、大川平の荒馬まつりがきっかけとなっていて、おもしろいなあと思います。

 現在、今別町の地域おこし協力隊に応募しており、その結果待ちです。大川平には楽しい思い出がたくさんありますが、よくよく考えてみれば、まだOB・OGのように深く関われてはいません。私はまだ、祭り期間の非日常の大川平しか知りません。祭りだけ楽しんで、それで終わりにはしたくないなと。できることなら地域おこり協力隊として、また、プロジェクトメンバーの一員として。日常の大川平、今別町の生活を豊かにするお手伝いをしていきたいと思っています。



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吉川 創太(きっかわ そうた)さん/
2020年度、23代目の和太鼓ドン代表。大川平には2019年に一度だけ行ったことがある。

荒馬に誇りを持つ、大川平の人々に魅了されて

 私は、荒馬にとても魅力を感じています。踊りを見ていて思うのは、リズムや踊りそのものは単調でほかの郷土芸能よりも覚えやすいんですけど、なぜかいつまでもゴールに近づかない。地元の方の背中を追い続けるのがとても面白いです。まだ現地には一度しか行けていないのですが、そのときに、地元の人たちが荒馬にとても誇りを持っていると感じました。継承しなきゃいけないとか、そういうことよりも、本当に荒馬が好きなんだということが伝わってきて。あの熱さにみんな持っていかれてるんだろうなあと、思いましたね。

 私は出身が島根なので、田舎に対する憧れというものはあまりないのですが、それでも、大川平の時間がすごくゆっくりと流れているような気がしました。滞在は1週間で、その間時間にしばられず、解放されたように、いい時間を過ごすことができたことがとても良い思い出になっています。

 伝統芸能に関わる人たちが自分たちの芸能の良さを再発見し、さらに高め合える横のつながりを作りたいと考えています。大川平はまさにモデルケースだと思っています。私たちが来ることで地元の人たちは「うちの荒馬はすごいんだな」って再認識する機会になるし、私たち「よそ者」も、地元の人たちの熱さにさらに惹かれていく。好循環ができているように思います。今後も何らかの形で伝統芸能と深くかかわり、大川平で生まれている流れを全国に波及させ、そしてまた大川平に還元できるような人間になりたいと考えています。

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